耐震偽装事件のポイント  書類の名前



 耐震偽装事件の関係者が(別件ですが)逮捕されました。この事件の大切なポイントのひとつが、役所の書類の名前です。
 書類にはいろいろな呼び方があります。市役所に出すものは
申請とよばれるものが多く、裁判所は申立申述、税務署は申告、特許庁は出願、など。こうしたよび名のちがいには深いワケがあるのですが、書類の名前はよく誤解もされます。
 たとえば、お子さんが誕生したら14日以内に
出生届を出さなければなりません。これは「名前」を届けることだとよく誤解されますが、じつは読んで字のごとく「出生を報告する」ものです。14日以内に子の名前を決めろという法律はなく、14日以内に出生届さえ出せば、名前の欄を空白で出しても法律違反にはなりません。
 耐震偽装でよく耳にする
確認というのも書類のよび名です。ただこの意味はわかりにくく、建築士でも、弁護士でも知らない人がいるくらいで、まして一般の人にはほとんど知られていません。そしてこのことが耐震偽装事件をわかりにくくさせ、誤解を生んでもいます。
 あるTV番組のコメンテーターが、「
建築確認でなく建築許可と言うべきだ」と発言しましたが、じつはこれ、とんでもないマチガイなのです。これを混同すると、この事件はわからなくなります。許可確認は、つぎのようにまったくちがうものです。
 許可のほうは、わかりやすい言葉で、使用許可というように、ある特定の行為をOKすることです。
 しかし建築に許可はあり得ません。なぜなら、建築には無数の行為が含まれ、行為が特定できないからです。たとえば、他人の土地に無断で建てるのではないか、盗んだお金で建てるのではないか、などとキリなく話が広がってしまい、だれにも許可など下ろせないのです。
建築許可は、つなげようのない異質な言葉で、建築許可などと言っても、何の行為を許可したのかわからなくなるのです。
 そこで建築の場合は、行為でなく、建物自体の審査だけをし、
確認と呼ぶのです。「建築関係の法規に違反していない建物であることを確認する」という意味です。そして問題がなければ、「確認しましたよ」と確認通知(確認済証)を出します。
 つまり確認とは、建物自体を建築関係の法規でチェックすることで、建築という行為の許可ではありません。建築のための必要条件のひとつにすぎないのです。
 そして
確認申請で出された図面や計算書が建築の法規に違反していたとしても、それだけでは違法行為にはなりません。審査でまちがいを指摘されたら、「いやあ、気がつきませんでした」と作りなおせばいいだけです。
 もちろん他人の土地に無断で建てたり、盗んだお金で建てれば、ほかの法律にふれる犯罪行為です。でもそうした犯罪行為は、建物の
確認とは関係せず、確認のほうは下りるのです。
 
許可確認はこれほどまでに、似ても似つかないものなのです。
 では建築の法規に違反していながら、審査のとき気づかずに
確認を下ろしてしまったらどうなるのでしょうか。
 これは人の名前でいえば、名前に使えない文字を出生届に書いて、役所が気づかずに戸籍に登録してしまった、というのと同じです。その名前は、世の中に存在できないはずの名前です。でも、つけられたお子さんに罪はありません。責任は役所にあり、その名前を戸籍から抹消しなければなりません。
 耐震偽装事件でも、「工事関係者は気がつかなかったのか」とよく言われますが、違反でも確認が下りていれば、工事を行った者に責任はありません(
確認申請に関与していれば別ですが)。本当はその確認自体が取り消されなければならないはずで、その確認によって建てられた建物は、存在してはいけないものなのです。
 世間では「売り主は被害を補償しろ」という意見が多いですが、気をつけなければならないのは、この事件を一般の「物件に瑕疵(かし)があった場合の売主の補償責任」とカンちがいしてはならないということです。
 偽装事件は、はじめから存在してはならない物件が売られたのですから、いわば、麻薬を医薬品だと言って売ったようなもので、瑕疵責任などでなく、売買契約そのものの有効性が問題なのです。
 偽装問題は既成事実の延長でばかり論じられ、人の行為ばかりに興味がもたれ、悪者さがしが続いています。でも、関係者たちが偽装とどう関わったかという行為が明らかになり、彼らがどんな刑に服しても、被害者にとって問題の解決にはならないでしょう。
 人の行為よりも、建物自体が存在してはならない物件なのだ、という原点に立ちもどらないと正しい判断はできないのです。
 今回のことは「国の責任だ」という声もよく聞かれます。そうかもしれません。役所の審査が時間がかかるからといって、民間の審査機関などつくったら、お客さまの取り合い競争、サービス合戦がおきるだけで、きびしい審査など夢物語になります。だからこそ多くの分譲業者、建設業者が民間の審査機関の設立を熱望したはずなのです。民間会社どうしの審査に問題がおきやすいことくらい、サルでもわかります。
 でも残念ながら合法的な手続きで作られた制度は、作った者に責任は出ません。どんな制度でもトクする人と損する人はあり、悪用する人間は出ますので、そのたびに制度を作った人を罰するわけにはいかないのです。ですから偽装事件でも最後まで絶対にさばかれないのは官庁(国土交通省)です。
 そうはいっても、消費者のことを考えず、業界のためばかり考えた制度であることは問題で、似たような事件がいつまたおきるかわかったものではありません。