何に向かって走るか   金正日



 北朝鮮は1948年に旧ソ連の指導下で作られた国ですが、この国が広く日本人の会話にのぼったのは1970(昭和45)年の赤軍派のよど号ハイジャック事件がはじめてでしょう。
 かつて大東亜戦争のあと、マッカーサーは日本を侵略国家として裁き、戦争犯罪人を決めて処刑し、「日本だけが100%悪かった。日本が武装しなければ戦争はおきない」と日本人を教育しました。
 ところがそのすぐあと1950年に建国翌年の中華人民共和国がチベットに攻めこんで占領し、建国2年後の北朝鮮がソ連から武器支援をうけて韓国に攻めこみました。そして北朝鮮を支援する中国軍と、韓国を支援するアメリカ軍は朝鮮半島で死闘をくり広げました。
 マッカーサーはあとからあとから押し寄せる中国兵にとうとうお手上げになり、占領されたソウルをやっと奪還して38度線で泣く泣く休戦協定を結びました。そして中国やソ連のすさまじい軍事行動に青ざめてしまい、「日本の戦争は侵略でなく自衛だった」などと訂正しました。
 この朝鮮戦争では600万人の死傷者と数えきれないほどの離散家族が出ました。しかし日本国内では共産圏のことは闇の中で、一部の日本人によって、北朝鮮は生活の安定した真の民主主義の国だと宣伝もされていました。多くの日本人妻も、ハイジャック犯も、北朝鮮がどういう国か知らずに行ってしまったので、正しい情報のないことは本当に恐いものです。
 このように、ソ連(ロシア)と中国は北朝鮮を生み育てた父母のような国です。父母にとってはヤクザな子でも愛情はありますから、いまもこの3国は強い仲間意識はあるでしょう。そしてこの父母の国だけは北朝鮮に影響力、発言力をもっていますから、もし中国とロシアが世界平和をめざす国になったなら、北朝鮮の核武装をおさえ、拉致被害者の救出に協力することだってできるはずです。
 かつて1972年に金正日(キムジョンイル)が4人の副主席を飛びこえていきなり金日成(キムイルソン)の後継者に内定したのも、別の意味でソ連や中国の影響はありました。もちろん金日成の子で、父親を無条件に尊敬していたことが主な理由ですが、そのころソ連や中国も共産党の派閥争いで大混乱していて、北朝鮮の労働党内部で「わが国は彼を早く後継者に決めといた方がいい」という声が広まったことも原因です。
 ところで拉致事件でもよく話題になりますが、朝鮮では幼少のときの名前を変える人がいます。金正日もはじめは金正一という名で、のちに金正日になっています。読み方はどちらも同じですが…。

 の最初の字体はモノと足を描き、もともとは「目標に向かう」ということをあらわす字です。はもちろん、モノが一つあることです。
 つまり
正一は「一つの所に進む」という意味の名で、いかにもたったひとつの総書記の椅子にすき進んだ生きざまと重なります。
 その彼は
正日と名を変えていますが、これは何を意味するのでしょうか?
 じつは彼の祖父の
金亨稷(キムヒョンジュク)は反日運動家で、一族にも反日思想をもつ人がたくさんいました。もちろん日本が朝鮮を統治していましたから、朝鮮人にそういう人がいても不思議ではありません。父親を尊敬していた金正日も、明らかに反日の流れの中に位置します。
 しかし
金亨稷の子が金日成と名のり、孫が金正日金平日(キムピョンイル)金英日(キムヨンイル)です。日本嫌いの家系に「日」の字が次々と出てくるのは、なぜなのでしょうか。しかもという女性との結婚もみられ、朝鮮人がほとんどしない同姓の結婚だということになります。
 つまりこの家系は、民族の伝統と誇りのために立ち上がるという発想だったのかどうかが疑問です。日本嫌いではあっても、無意識の中では日本の存在が大きく、いわば対日コムプレックスのようなものがベ−スになっていた可能性があります。
 ちなみに
日成は「日本のように成る」、正日は「日本に向かう」、平日は「日本と肩を並べる」、英日は「花の日本」という意味にもなります。
 
金正日もコムプレックスをベースに考えたほうが、つじつまは合います。そもそも国民の飢餓状態とかけはなれた軍備、しかも核兵器までもち、麻薬の大量生産をするような政府が、民族の歴史や文化を大事にしているはずはありません。
 コムプレックスは私たち誰にでもありますが、それが限界をこえると、病的な攻撃欲求が出ることがあります。日本人ではもっとも極端な例が
麻原彰晃です。
 幼くして父親から暴行を受け、6歳で盲学校の寮へ入れられた
麻原は、何かというと人を監禁し、暴力もいとわず、しかも視界が真っ暗になるサリンをまいています。自分で気がついてないだけで、心理的には「みんなオレと同じ目にあえ」という八つ当たりです。オウムも一文無しの青年がひしめき、武器や麻薬ばかり豊富な集団でした。
 金正日
は7歳の時に母親の金貞淑(キムジョンスク)と死別し、ママ母の金聖愛(キムソンエ)とは気が合わず、しかも異母弟の金平日は彼と正反対の優秀な人物です。これでは対日コムプレックスに、生い立ちのトラウマが上塗りされたようなものです。
 あたたかい家族のきずなを知らない彼は、1人の女性と長続きせず、4人の妻をもったうえ、関わった女性は数しれません。そしてよその家族を引き裂き、拉致監禁をするのが大好きです。
 北朝鮮には日本人もたくさんいますから、日本語教育のために日本にまで来て人さらいをする必要などなかったはずです。つまり必要だからではなく、病気だからやったのです。
 大きなコムプレックスをかかえた人間は、病的な行動が出ても自覚症状はありません。
それでも精神病棟に隔離されているならただの不幸な人間にすぎませんが、多くの人の上に立ったら悪魔と化します。
 後継者の
正恩という名ですが、因は「くっつく」という意味です。女性と一緒になることを姻といい、口とつながった奥の部分を咽といいます。心をつけた恩の字は、もとは「心が何かに執着する」ということで、たまたま「感謝する」という良い意味で使われてきました。正と恩が合わさった名前は、何かにこだわってつっ走るという可能性も秘めた名ともいえます。