1872 明治5 |
太政官布告=戸籍制度スタート。一名主義。改名の禁止。ただし同氏同名の人がいて混乱する場合は、改名したい旨を届け出れば許可する。 |
1873 明治6 |
太政官指令=事業上の襲名、出家、還俗による改名、俳優や娼妓を廃業する場合の改名を許可する。 |
1875 明治8 |
内務省指令=芸業では戸籍と別の名を使用してよい。 太政官指令=家の再興のための襲名を許可。 |
そのはるかのち、1948(昭和23)年にあらたな戸籍法がつくられ、そのときもやはり「改名は裁判所の許可を要する」ときめられました。おなじ年に最高裁判所は、「改名はどんなとき許可していいの?」という地方裁判所からの問いあわせに、甲三七号という回答を出しました。「改名の許可はつぎの条件で考えてね」というものです。
1 営業目的による襲名(名前入りの屋号を継ぐような場合)
2 同姓同名の人が近くにいて大混乱している場合。
3 神官、僧侶になったり、またはやめたりするとき
4 珍奇な名。難解な文字の名。
5 帰化した場合。
そのあとも改名の条件については、1952(昭和27)年の大阪高等裁判所の、同じような判例があります。
いまもこの基準はひきつがれています。上にあげたような事情、またはそれに見おとりしないだけの社会的な理由があれば、改名がみとめられることはあります。つまり名前に対する考え、あつかいは、明治のはじめから今日までほぼ一貫して変わっていない、ということです。
なぜでしょう? それは逆のことを想像すればわかります。だれもが気ままに、ひんぱんに名前をかえられたなら、社会はどんなふうになっちまうのか、ということを。
Q 名前の変更の具体的な手順を教えてください
例外的に名前を変えられるケースの手続きについて整理しておきます。
@ こんなときは役所に届けるだけ
これを更正の申出(コウセイノモウシデ)といいます。更正と訂正は意味がちがいますが、ここではそんなことは気にせず、ようするに直してもらうことだ、と思ってください。たとえばつぎのような場合はできます。
変えるまえ | 変えたあと |
戸籍の名前に実際に存在しない誤字がある | 正字 |
戸籍の名前が常用漢字・人名用漢字以外の字種で、特殊な字体である | 康煕字典体の漢字 |
戸籍の名前の通用字体と異なる字体 | 通用字体 |
戸籍の名前の変体仮名 | ふつうの平仮名 |
戸籍の名前の旧仮名づかい | 現代仮名づかい |
★字種とは「どの漢字か」ということ、字体とは「どんな書き方か」ということです。
★正字とは、定義がとてもむつかしいのですが、大きめの漢和辞典にのっているような字、と思ってください。
★康煕字典(こうきじてん)は18世紀に中国の清王朝の命で作られた字典で、20世紀に各国で新字体が作られるまでは、この字典が漢字の楷書体の基準とされてきました。
★通用字体とは、常用漢字、人名漢字のリストとして発表されている字体で、私たちがふだん読み書きしている楷書のほとんどがそうです。
★このほか、名前の文字をかえずに読み方だけをかえる(あまり非常識な読みかたでないこと)という場合は、更正の申出でなく、報告だけになります。戸籍の名前そのものにふりがながないかぎり、読み方だけの変更は名前の変更にはなりません。
A こんなときは裁判所に申立てをする
戸籍とまったくちがう名前に変えるためには、家庭裁判所に「名の変更許可申立書」を出します。用紙は家庭裁判所にあります。このさい客観的な理由(正当事由=セイトウジユウ)と、新たにつけたい名前を書いて出します。
家庭裁判所で改名が許可されたら、許可の審判書の謄本を添付して市町村の役所へ改名の届出をします。家庭裁判所が許可しないときは「却下の告知」がされますが、それが不服なら即時抗告の手続をとって高等裁判所で争うこともできます。高等裁判所で許可になれば、判決文を添付して同じく改名の届出をします。
では高等裁判所でも許可しなかったら…? もういさぎよくあきらめてください。